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華咲き誇れ 風澄み渡れ ともに愛しき彼へと"愛の詩"を紡いでいこう
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金色の髪して綺麗な碧目をした西洋のお人形さんが愛しくて、気付いてしまった。

「此処にいらっしゃったのですか。随分とお探ししましたよ」

誰が見ても温かな笑顔を湛えて神の配下にあるブラザー・マタイは静かにそう言った。
しかし、誰が見ても笑顔と取れる完璧な笑みの下は、今にも燃え上がりそうなほどの禍々しい殺意がありありと浮かんでいるのを見逃すはずもなく、シュルツもまた、貼り付けただけの薄い笑みで切り返した。

「少し、気になることがありまして。それに此処は落ちつきますから」

手に取った本を静かに閉じながら、隙を探るかのように見下ろしてくるマタイを至って滑らかに視線を投じた。

そう、シュルツはマタイにとって仇敵以外の何者でもない。

以前戦いの最中にあったマタイをシュルツは遠方から見ていた。見ていた、というより明らかな狙いをつけて射殺しようとしていたのだ。
上司であるカテリーナ・スフォルツァの命に従い、任務の円滑に行うためには邪魔でしかない異端審問官を撃ち殺すために崩れた瓦礫の影から狙いを定めていた。

しかし、その命は叶わなかった。

狙いは良かった。一ミリたりとも外れてはいなかった。流石は異端審問官。その反応速度たるやカテリーナ、シュルツの計算外であり、シュルツが放った銃弾はマタイの頬を掠め去るだけに終わったのだった。

「その本、後でお借りしてもよろしいですか」

マタイは流れる髪を厭うことなく微笑みを絶やさずに問う。
たとえそれが有限の限りだとしても、シュルツは。

「ええ、お待ちしております」

戦いの中で見た煉獄にゆらめく双眸にもう一度。


「「……楽しみにしていますよ」」


焼かれるほどに射抜かれたいと思っている。





(残虐なまでに恋をしてしまったのかもしれない)

用事という用事はなかった。


次々と湧いて出る書類に目を通す中、彼女とは毎日のように顔を合わせてはいたがそれはあくまで仕事上の話であって個人的な会話など皆無であったし、無論そんな時間もなかった。

(全く、面白くない。)

こつこつと机を指で弾きながら、マタイは僅かに眉を顰めて愛しい人を視線で追っていて、遠くでは同僚と話しているのであろうシュルツが柔らかに微笑んでいた。

 

部屋に入り込むのは容易かった。
シュルツは事務机に座り、何か報告書らしきものを書いているようで下を向いたままこちらに気付いた様子はなかった。
いや、気付くはずもないのだ。自分が部屋に入った時、シュルツは確かに報告書と向かい合っていたがその腕は動く様子もなく、ただ時折ぴくりと痙攣するだけで意識は忘我の彼方にあったのだから。

(貴方のような方が居眠りするほど、忙しいことなのでしょうか)

読む側と書く側では、精神的疲労が異なるのだろう。行う作業が違えば感じる疲労の精度も違ってくるはずであり、それは当然のこと。
こくり、首が微動したかと思うとさらさらとした髪は重力に従い流れ落ちていった。それを掬いあげようとしてつい手を伸ばす。

「はやく起きてくださらないと、折角の時間が勿体ないのですがね」

マタイが此処に来たのは局長への報告を済ませた帰りの道であった。
事務的に報告を済ませた後、少しだけ顔が見たくなってシュルツの部屋の扉を叩いたのだが返事はなく、もしかしたらと思って入ればこの状況。

(嬉しいのやら、残念なのやら分かりませんね)

こうして寝顔を見られて、あまつさえ直接触れられる機会などおそらくもうこない。

(いえ、これからの次第によってはありえるのでしょうが)

しばらくの間、マタイは手におさめられた長い髪を弄んでいたが、やがてそれも止めた。このまま帰るのも名残惜しかったが、ここで起こすのも忍びない。静かに踵を返すと扉に近づき、ドアノブに手を伸ばそうとする。

「ん……、」

背中越しに眠たげな声がして、咄嗟に近くにあったソファの陰に隠れる。本当に、本当に一瞬の判断だった。

(普通に、していれば良かったものを)

私らしくもない。これでは部屋を出る機会もシュルツと正面きって話す機会も失ったようなものだ。憎々しげに自分の行動を呪った。


だが、一向にシュルツが仕事を始める気配がなく、不審に思って伺い見てもペンはインク瓶に立てかけたままでシュルツもまた動かなかった。
どうやらまた寝入ってしまったらしい。

 

息をついてマタイはその場に立ち上がると、またシュルツのもとへと近づいて。
深い愛情の念を湛えてくつりと笑んだ。


「…今度は貴方が微笑んでくださる時に、お伺いしますよ」


貴方が私に、微笑みかけてくれるその時まで、


Have sweet dreams.

カリ、カリカリ。部屋に響くその音は、まぎれもなく今自分が使っている羽ペンの筆記音である。
それ以外の音といえば自分が吐くため息くらいのもので、シュルツは静かな自分の部屋で期日の迫る報告書を仕上げているはずだった。

確かに、音は羽ペンの音しかしないのだが。

「…………。」

ゆっくりと視線を上げた先には見慣れた顔がにこやかにこちらを覗き込んでいるのだ。いつ入ってきたんだろうか、この部屋には事務机から真正面に一つ扉があるだけで、気づかないはずはないというのに。この異端審問官ときたら、

「私の事は気にせず、そのまま続けてください。シスター・エスター」

穏やかな微笑を湛えたまま先へと促すのだ。シュルツは羽ペンを一旦インク瓶に浸した。仕事はもちろんしたいが、それとこれとは話が別だ。

「…ええ、それはそうなのですけれど、あの、ブラザー・マタイ?何かご用命があって来たのではないのですか?」
「ああ、そうですね。しかし急ぎの用事ではありませんから、お気になさらず」

そうは言っても。異端審問官かつ上司である彼の用事をよそに仕事など出来るはずがない。きっと彼は自分の仕事が終わるまで待つ気なのだろうが、それこそ(邪魔で)集中できるはずもなかった。このままずっと見られ続けていたら迷信とはいえ本当に穴が開きそうだ。

一向に続けようとしないシュルツをみかねたのか、マタイはもう書かないのですか?というかのように浸していた羽ペンを差し出した。それをひとまず受け取り、シュルツは努めて笑みを貼り付けたまま小さく首を振った。続きなど到底書けそうにない。

「いえ、丁度一息つこうと思っていたんです。先にお話を承りますわ」

インクを滲ませないように注意を払いながら報告書を片づけて、シュルツは席を立った。一瞬マタイの顔が無表情になったような気もするが、シュルツが再度見た時には先を変わらぬ笑みを湛えていたためにそれもすぐに霧散した。

「貴方が執務を終えられたことで、私の用事というのはほぼ終わりました。あとは、」

シュルツ自身が気づくよりも先に手慣れた仕草でマタイはシュルツの手の甲にキスを落とした。

「シュルツ、一緒に昼食を食べに行きませんか?」

ちゅ、という音が聞こえてシュルツは一気に顔が熱くなるのを感じた。一介の尼僧である自分になんて恥ずかしいことをするのだろう。そのさりげなさが忌々しい。動揺して口が硬直したようにうまく呂律が回らず、シュルツは下を向いた。

「わたし、あ、あの、ブラザー…」
「マタイで構いません、シュルツ」

顎に手を添えられ、優しい口調で上を向かされるとその瞳とかちあった。
平生、閉ざされていた瞼は薄く開かれており、その瞳は漆黒を模したように黒く、奥まで吸い込まれる感覚さえ覚える。シュルツは引き込まれる、と咄嗟に思った。

「では行きましょうか。最近できたプレンツェカフェはカップル客を対象としたランチが評判らしく、一度賞味したいと思っていたのですよ。これなら行けそうですね」
「………え?」

先刻までの濃密な雰囲気は一変、マタイはことさら楽しげにシュルツを見返した。打って変わって未だ惚けていたシュルツはぴたりと全ての時が止まったように感じた。


つまりは恋人の役をやれという、それだけのこと。


(こ、んの…!所作も言い方も回りくどいのよ!!)

状況を瞬時に把握し終えると怒りなのか、悲しいのやら、恥ずかしいのやら。とにかく穴があったなら絶対入りたいと上機嫌さながらのマタイに手を引かれながら強くそう思った。
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